今回はパターン本の英語版のお話です。
英語版を作りたい
編み図をより多くの人に手に取ってもらうため、私は英語表記を重視しています。私の単品の編み図は英語と日本語を併記していて、パターン本は英語版と日本語版を作りました。
今はスマホが普及していて外国語を翻訳するハードルが下がっているものの、アルファベット以外の文字を入力するのはとても大変な作業です。また日本語から各言語への翻訳は精度がイマイチです。本の内容をたくさんの人に伝えるためには英語の編み図作りをオススメします。
どうやって翻訳する?
私は以前の仕事で英語の科学論文を読むことが多かったので、タティングの洋書がどうにか読めます。しかし英語の細かいニュアンスの読み取りや英作文はめっぽう苦手なので、数ページの編み図ならともかく自分で1から本1冊を翻訳するのは無謀という状態でした。そこで、あとりえシシカス様に英作文ができてタティングレースの経験がある、くっくさんを紹介していただいて一緒に翻訳していきました。担当文章量は私が30%、くっくさんが70%くらいでした。
私の担当したページの翻訳作業は次のように進めました。
- 翻訳ソフトで英訳
- 内容を微調整
- 文法チェッカーで簡易校正
翻訳ソフトで英訳
使ったのは以下のソフトです。
DeepL
ディープラーニングを使った機械翻訳サービスです。26言語対応。自然な英文に翻訳してくれると評判のようです。翻訳作業は主にこのサービスを使いました。なるべく平易で誤解の少ない文になるように心がけました。実現できていたかは不明ですが。
DeepLの良いところは訳出された単語をクリックすると他の翻訳候補が表示されて、次点以降の候補に入れ替えられることです。例えば「明日荷物を発送します」の翻訳は「We will ship the package tomorrow.」と出てくるのですが、We をクリックすると I will…や The package will be… などの候補が出てきて、入れ替えた単語に合わせて後ろの文章が適切な形に変更されます。英語力が半端な私にはこれがすごくありがたい。Google 翻訳だと次点候補がほぼ出ないので、翻訳前か翻訳後の文いずれかを手動で直す必要があります。DeepL、おすすめです。
Google 翻訳
Google 社の翻訳サービスです。対応言語はなんと100以上。SNS でもらったコメントの言語がわからない時は Google 翻訳を使うことが多いです。場面に合わせて使い分けると良いですよ。
DeepL の翻訳が怪しい?と思った時は Google 翻訳の結果と見比べたりしました。翻訳が心配なときは機械翻訳を複数見比べるのと、英訳を日本語翻訳して意味が変わっていないかも見ると安心です。
Weblio 翻訳
GRASグループの翻訳サービスです。こちらは英語、中国語、韓国語のみ対応です。英和・和英辞書サービスも展開していて、そちらを使うことが多かったです。
専門用語の訳が大変でした
タティングレースの専門用語は引用・参考文献に載せた An Illustrated Dictionary of Tattingに載っている言葉を優先して使用しました。
タティング辞書に載っていなくて困ったのは「重ねつなぎ」でした。日本では藤戸禎子先生、盛本知子先生が多用なさっているので一般に認知されていると思うのですが、洋書だとシャトルつなぎを使うことが多くてあまり記載がありません。私が難渋しているのを見かねて、くっくさんが「重ねつなぎは Slope and roll join である」のを発見してくださって、どうにか訳出できました。
他には糸のコブ(bumps)、ピコつなぎの裏面に出る糸(color blips)、ドイリーがフリルになる(ruffled)、お椀になる(対訳が見つからず他の表現に変更)、などの用語についても、くっくさんが時間をかけて調べてくださいました。
タティング用語は1つのテクニックに複数の名前がついていることがあるので、本の中で使う用語を統一する必要があります。シャトルつなぎをLock join/Shuttle joinのどちらにするか、core thread/shuttle thread、clover/trefoil/shamrock などもあります。選択に迷った時はGoogle検索をして結果の件数が多い方を採用しました。
ビーズ用語は前述のタティング辞書には記載が少なかったので、ビーズタティングの本を数冊見て書き方が一番シンプルなものを参考にしました。アクセサリー用語は和英辞書通りで良いのか心配だったので、海外のアクセサリーパーツ店の商品写真と商品名を見比べてお勉強しました。9ピンってeyepinなんだ〜丸カンは jump rings なんだね〜とか、英語でピアスって通じないの!?(earringsでOK)だとか、、初めて知ることばかりでした。
内容を微調整
タティングレースには専門用語が多く、翻訳ソフトではカバーしきれない語句が多いです。編むはknitで訳されてしまいますし、編み図は knitting chart、糸もthreadではなくyarn(毛糸)になってしまいます。このあたりは手動で変更しました。最後の方で気づいたのは「そのまま表記してほしい単語は日本語文のなかでアルファベットで書いておく」のが有効なこと。
例えば
1段目はリングAから編み始めます。
これを
Row 1 は Ring A から編み始めます。
みたいに書き換えてから翻訳機にかけると、余分な作業が多少減る気がします。
日本語では主語が省略されがちなので、英文翻訳時に誤訳が発生することがあります。DeepLでは文脈がある程度考慮されているのか、一文よりも数段落分を一度に翻訳する方が翻訳精度が上がるような印象がありました。
文法チェッカーで簡易校正
文章を何度も修正すると、気づかないうちにミスすることがあります。
こちらは英文法チェッカーです。スペルミスや語意の重複、aとtheの書き漏らしの指摘など細かいチェックをしてくれます。チェック結果は英語で出てくるので、一度試してみて運用が無理そうなら業者に校正を頼んだほうが効率がいいかもしれません。Grammarly は基本的に無料で利用でき、有料のプレミアム版では語句の頻度解析(英語は同じ単語を何度も使用するのを避ける傾向がある)や受動態を能動態に変えたほうがいいよ、みたいなハイレベルな校正をしてくれます。1ヶ月だけプレミアム版を使ってみたけれど、私の英語力だと変更後の文が良くなったか判別できませんでした🥲。私には無料版で十分でした。
数ページ分の作業が終わったら、二人の翻訳文をお互いにチェックしあって修正を掛けました。95%以上が私の翻訳文の修正でした😆
辞書を使うこと。他の人はどんなふうに英文を書いているのかよく観察すること。くっくさんと一緒に翻訳作業をして、相手に伝えるためにたくさん調べて、それを翻訳文に反映させるのが重要だと学びました。くっくさんにはご負担をかけてばかりでしたが良い翻訳ができました。本当にありがとうございました。
テクニック面の表現チェック
今回のパターン本の翻訳者は二人とも日本語話者です。一般的な言い回しの知識は、やはり普段英語でタティングレースをしている人にはかないません。訳が不安な箇所も多々あったので、第三者のチェックをお願いすることにしました。
問題は、私の知り合いにそんな人いないわ〜〜💦ということ。
でも翻訳作業を進めていくと、どのテクニックを google 検索してもほぼ毎回同じブログが出てくることに気づきました。筆者さんを拝見すると、9月に日本語版を出版した時にInstagramにコメントしてくださった方で、パターン本のこともご存知で、、というところまでわかって。これはもう、この方にお願いするしかないと感じて思い切って依頼メールを送りました。
依頼したのはmuskaanさん、ブログはこちらです。
ほぼ初対面にも関わらず快く引き受けてくださいました。
うまく翻訳できているか心配だった部分、伝わりにくい箇所に適切なアドバイスをいただきました。
タティングレース用語はここ100年で少しずつ変化してきていて、古い洋書だと普通に使われる単語でも今は別の単語に置き換わって伝わりにくい表現が出てきているそうです。今回のパターン本でもそんな表現があって、muskaanさんの指摘で現代の人にとってわかりやすい言葉に修正した箇所があります。本当に有意義な校閲をしていただきました。
何度もメールをやりとりして、たくさん修正して、自信を持って出版できる内容になりました。muskaanさんにお願いして本当によかったです。ありがとうございました。
英文校正
英文校正は校正業者に依頼しました。
日本語で「英文校正」と検索するとたくさんの英文校正・校閲会社が出てきます。
これは主に海外の科学雑誌(ネイチャーとかサイエンスとか)へ研究論文を投稿するときに、文章表現や論理構成のチェックを請け負ってくれる会社です。企業によってはビジネス書類などの校正も受け付けているので、断られるのを覚悟で校正依頼をしました。何社か見積もり依頼をして返事が来たのは1社だけ🥰 手芸本なのによく受け付けてくれたなぁと思います。感謝しかない。
いつも同じように請け負ってもらえるかわからないので依頼した会社名はここには載せません。すみません。依頼する時は製本用の写真入りPDFだけでなく、文章のみのword文書やテキストファイルも添えると見積もりが安くなりますよ。
校正してもらったら文章がスマートに!なってる!文章のIQが20くらい上がった気がするから専門業者ってすごいなぁと思いました。タティングレースの技法もしっかり読み取ってくださって、テクニック解説ページもきっちり校正してくださいました。明らかな誤校正は1箇所だけでした。頼んでよかったです。
まとめ
パターン本は、こんな感じで作っておりました。我ながら無茶をしたなぁと思っています。
長期間、新作づくりを止めてまで本を作る価値はあるのか?と思いながら作業していましたが、作ってよかったと思います。予想以上に多くの方に手に取っていただけて、感想メールやSNSでの反応を拝見するととても嬉しいです。
この本は奥付やブログでも書いたとおり、他の方に助けていただきながら作りました。手作りの本でここまで質を高めることができたのは三人と校正会社のおかげです。何度もやりとりしてくださって感謝いたします。
2冊目のパターン本はもっといいものにできるよう、新作作りに励みたいと思います。数年かかると思いますが、どうぞお待ちいただけますようお願いいたします。